
3月から始まった「あん小話」も、今回で4回目を迎えました。行く先々で「読んでるよ」とお声がけいただくことも増え、うれしい限りです。
今回は、はんなりと優雅なひとときを味わえる「上生菓子」の世界へ。季節が足早に過ぎ去るように、お菓子との出会いもまた一期一会です。

高松中央商店街の北側、高松三越にもほど近い片原町西部商店街には、由緒ある老舗から新しいお店までが軒を連ねます。その一角で100年以上の歴史を刻む「冨久ろ屋」さんを訪ねました。大正6年創業の「冨久ろ屋」さんは、看板からもその歩みが伝わってくる上生菓子の名店です。

実は高松市は非常に茶道文化が盛んな街。地方には珍しく主要流派が揃っているのだとか。店内にはいつもお茶会の案内が掲げられており、毎週末どこかでお茶会が開かれているほどです。

入り口のショーケースには、その日の朝に作られたばかりの上生菓子が並びます。職人の手仕事ゆえ数には限りがありますが、常時7〜8種類もの季節の上生菓子が揃う店は、決して多くありません。どれも美しく、選ぶ時間さえも贅沢ですねー。

今回の「あん小話」でご紹介したのはこちらの「落し文」。新緑の若葉が初夏を爽やかに彩ります。オトシブミという小さな虫が作る、卵のゆりかごが道に落ちている様子を、想い人に拾わせる恋文に見立てたことに由来するそうです。「身分違いの恋だったのかしら」なんて想像を巡らせながら味わえば、お茶はよりほろ苦く、お菓子は甘美な気がします。

私は茶道の心得はありませんが、お抹茶を点てていただく時間は大好きです。お気に入りは、同じ片原町商店街にある「原ヲビヤ園」さんの「東雲」(しののめ)。目でお菓子を堪能し、美味しいお抹茶とともに味わう時間は、まさに至福のひとときです。

上生菓子は四季の移ろいを表現するため、一つの意匠が店頭に並ぶのは、おおむね2〜3週間ほど。「桜の形なら桜の味?」と思われるかもしれませんが、中の餡に違いはあっても、同じ練り切りであれば、基本の味はどれも同じです。
それは、季節を五感すべてで感じてほしいから。お茶席へ向かう道の暑さ、風にそよぐ葉の音、虫の声。そうした周囲の情景を感じるための「余白」として、お菓子はあえて味を変えない必要があるのだと感じます。
「お作法は分からないけれど、この可愛いお菓子を食べてみたい!」という方も、ぜひ。冨久ろ屋さんはどなたでも1つから購入できます。日常の中に、気ままなお茶の時間を取り入れてみてはいかがでしょうか。
冨久ろ屋さんと原オビヤ園さんは過去のあんこおもいでも取材しています。
あんこおもい vol.07 可愛い和菓子
冨久ろ屋(ふくろや)
所在地:香川県高松市片原町10-16
電話番号:087-821-3011
営業時間:午前9時~午後6時半
定休日:1月1日
http://www.hukuroya.co.jp/index.html
